聖女伝 シナリオ紹介

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サレナ記 第4幕

 

(製品版と若干表記が違う場合があります)

 

 男の導くままについて行った私の心は、ほどなくして後悔の念に満たされ始めていた。

 彼の後を追って進むにつれ、ますます視界は暗くなっていった。

 日が落ちているだけが原因ではない。周りの建物自体が暗く、薄黒くなっているからだ。

 私の家の周りは全て御影石や大理石、綺麗に磨かれた石によって白く輝いているが、ここの建物はみな赤茶けたレンガか、もしくは切り出したままの磨かれていない岩石だ。

 それも幾度とない風雨によって綻び欠け、いつ崩壊しないとも分からない不安定さの中で、住民を収容するためにそびえ立っていた。

 やがて、ローマの市内でも最も人通りが少ない、今となっては建物を建てる者すらいない見捨てられた一角に、彼らの集会場はあった。

 しかもそれは建物の中ではなく、地下に彫った洞穴であった。

 盗賊以外にこんなところに集う人達はいない。

 私は手を振りほどいてでも逃げ出さなければならないとも思ったが、どうしても彼らの奇妙な行為の源泉が知りたくなって、私の今までの人生においても際立って一番の危険を省みず、彼らの巣穴に入っていった。

 洞穴は壁も舗装されておらず、我が家の酒を貯蔵する倉庫でももう少し立派だと思わざるを得ない、急ごしらえの空間だった。

 しかし、そこには100人をゆうに超える多くの人々が、狭い中で肩を密着させあいながら説教者の話しに無心に聞き入っていた。

 私は今となってはローマじゅうの人間が知るに至った東方の密教の指導者はどんなのだろうと思い、目を凝らして姿を見てみた。

 しかし、そこにはなんともみすぼらしい格好をした男が一人いるだけで、拍子抜けしてしまった。

 ローマよりもはるかに文化の遅れたギリシャの祭司でも、もっと厳粛できらびやかな衣装を着ているだろう。

 ユピテルを司る祭司達の衣装は、その品格においては皇族の豪奢な衣装すらも圧倒し、見る者にある種の文化的な感激を起こさせる。

 しかし、目の前で静かな口調で話している男は、単なる一市民という感じであった。それも貴族にも遠く及ばない、本当に、貧しい身なりの男だった。

 もう本当に彼らの集まりが、単なる貧者の交流会のようにも思えたので、私はやはり勇気を出して帰ろうと思った。

 しかし、私をここまで連れてきた男は説教者を見るとさもありがたいものを見つけたように目を輝かせ、私のことは忘れてしまったかのように一目散に輪の中に入っていった。

 それを見ると、ここで去ってしまうのも何とも惜しいような気がしてきた。

ヒッポ「シニウス様!シニウス様!」

 不意に私の名前を呼ぶ者がいたので、何か悪いことをしているところを見つかったな気がして震え上がってしまった。

 声のほうを見ると、昨日私の家に入り込んでいたあの小柄な青年、名をヒッポと言うギリシャ人がいた。

 私は、彼に呼ばれるままに近寄り、彼の後ろに座った。

 単に地面に布が敷いてあるだけの席である。私は少しはしたない、恥ずかしい気持ちもしたが、場内には女性も多くいて、皆そうしていたので、私もそれに倣った。

パウロ「あまりに多くの石を人々が投げつけたので、イエスの最も重要な僕の一人である、ステファノは息絶えました。

 私はその石を投げつけた人達の後ろでそれを見守っていました。

 ステファノは、『主よ、どうか石を投げている人達の罪をお赦しください』と何度も天に叫び、死んでいったので、私は彼が、死の直前において気が狂ったのだと思いました。

 私はその後、ユダヤ教の大祭司の権力を後ろ盾に、キリスト教の信者を絶滅させようと、西へ東へと奔走しました。

 多くのキリスト教徒を殺し、それこそが私が神に課せられた重要な使命だと思っていました。

 しかしそのとき、主と出会ったのです。

 主は私にこうおっしゃいました。『パウロよ、何故私を迫害する。』

 そして私は目が見えなくなってしまいました。

 私はもはや何もすることが出来なくなり、病人のように家に閉じこもっていましたが、やがてキリスト教徒の一人が死を恐れずに私の家にやってきました。

 その人は私の目に手をかざし、そして『あなたは私達の兄弟です』と言いました。

 すると、私の目から鱗のようなものが落ち、私は再び目が見えるようになったのです。

 そして彼は、私に『神があなたを選ばれた』と言いました。

 これだけの大きな罪を犯した私を、主はお赦し下さいました。

 悔い改め、それを祈りさえすれば、主は全ての人々を平等に赦し、お救い下さいます。」

 緊張の中で聞いていたので、全部は把握できなかったが、とにもかくにもこの人は多くのキリスト教徒を殺したと、まさにこのキリスト教者の集団の中でのうのうと告白した後、そのキリストとやらを信ぜよと言っているのだった。

 ただよくは分からないが、非常にあらゆることについて寛大な神である様な気もした。

 多くの浮気と不倫をして女を不幸にしたユピテルや、塔を立てただけで立腹したエホバの神に比べれば、そのキリストという神は随分自分達に近い気がした。

 もともと世間知らずという負い目もある私は、その後もそこに残り、パウロの話を一通り聞いた。

 説教が終わり、若干人が減り、自由に移動できるようになると、ヒッポが私のところに来て、喜んで言った。

ヒッポ「シニウス様がいらっしゃるとは! あのパウロ様は、使徒様の中でも最も位の高いお人です。是非彼と直接話をしてみてください。」

 信者で最高位だと言えば、それは大祭司のことだ。そんな人と信者でもない私が話しをするのもためらわれたが、あまりにも熱心にヒッポが勧めるので、わたしはそのまま従った。

ヒッポ「パウロ様。この方が、昨日ローマ兵に襲われた私を匿って助けてくださった方の家主様です。」

 ヒッポはやはり迫害によって追われていたのだ。今日の人と全く同じ状況だ。

パウロ「そうですか、優しき心の方。あなたに神の祝福がありますように。」

 私は高額なお布施が必要なのではないかと財布を用意していたが、会は解散してしまい、集金をしている様子もなかった。

パウロ「今日の私の話はいかがだったでしょうか。」

サレナ「とても面白く・・・興味深いお話でした・・・。」(0401)

パウロ「そうですか。ここでの集会は誰に対しても開かれています。信徒でなくとも自由に出入りできます。

 また是非おいでください。」

 男は笑顔で私に微笑んでくれている。

 思えば私の父はかつて属州の総督を務めた終生元老議員であり、彼らを痛みつけているローマ兵達の上官でもある。

 そう思うとなんだか申し訳なく、同時に悲しい気持ちになってきた。

サレナ「どうして市内の兵達は、皆さんにひどい乱暴をするのでしょうね・・・。皆さん良い方ばかりですのに・・・。」(0402)

 昨日までキリスト教徒を子殺しだと言っていた私が言うのもおかしな発言だった。

パウロ「ユダヤから来た、キリスト教を喜ばしく思わない人々もいます。まさに私がそうでした。

 しかし良いのです。神の教えはどれだけの妨げに遭おうと、必ず広がり、人々に幸せをもたらします。

 我々にできることは、そうした迫害をする罪に至ってしまった彼らを赦していただくよう、神にお願いすることだけです。」

 この人達は、あれだけひどい目にあわせてきた兵達すら憎んでいないようだった。

 この彼らの常識を超えた、異様なまでの博愛と寛容の精神、一見無気力に思われるけれども、執念深い意志。

 その異国の香水のような独特の風に吹かれると、つい心の中まで彼らの香りで満たされてしまいそうだった。

 しかし、私の父はローマ政界の幹部である。私がこの異教徒とあまり馴れ馴れしくしていると、それは父を悲しませることにしかならないだろう。

 もう彼らと交わるのは今日でおしまいだ。

 そう固く心に決め、パウロと簡単な雑談を交わしたのみで、その日は帰宅した。

 特にしつこく黄金の彫像や祭服などを買うことを強要されることもなく、ただ入ったままの状態で出てくることが出来た。

 既に外は真っ暗になっていたが、何かに護られている様な安堵の気持ちの中、危険なローマ市を縦断し、無事家路に着いた。

 

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