聖女伝 シナリオ紹介

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サレナ記 第3幕

 

(製品版と若干表記が違う場合があります)

 

 この覚束ない世界において、最後の確証としてゆらめき

 時と空間に充たされた光

 今も世界を覆っているにちがいない始源の輝き

 幻影を散らすその姿は恐ろしく

 世界を疑う者を神に糾弾するかのように

 その現象の美しさゆえに

 この世界に存在が許されているかのようだ

 全てが燃え朽ち、

 その後には何も残らない

 魂ですら、精霊ですら、愛ですら朽ち果て

 歴史のひとひらでさえ消え失せん

 大いなる業火、地獄の大火

 

ネロ「・・・。

 どうかねぇ、諸君。トロイアのあのすさまじい炎が目に浮かんだのではないか。」

「まさに陛下はユピテルの生き写し、力と芸術を統べる至上神でおられます。」

「私などは炎の情景が思い浮かぶあまり、恐ろしさで身の毛がよだつ思いでございましたぞ。」

ネロ「ふふふ。そうか、そうか。

 ・・・。

 確かに私の作った詩は今世界にある中ではなんびとたりとも及びつかない壮大さであり、

ローマじゅうの優れた詩人を100人集め1ヶ月間それに集中させても、これ以上のものは書けないだろう。

 しかし何だろう。

 私はまだまだこれ以上の恐ろしさが詩によって表現できるのではないかという限界の可能性を感じるのだ。

 神が我々を地上に作ったのは、神の偉大さをいちいち地上で賛美してもらいたいと欲求した神の自尊心によるものだ。

 それならば、もっと輝かしい賛美の詩が、人類には残せるのではないか。

 人類最高の叡智を持つ私がそれをせねば、誰もそれができないというのに、どうしてもなかなかあの炎の恐ろしさ、

全てを焼き尽くす容赦のなさが文字に表現できず、また頭にも思い浮かんでこない。」

ティゲリヌス「陛下。私にお命じになれば、明日にでも奴隷百人の入った、山より高い木造の城をお望みの場所に建ててご覧に入れます。

 それを燃やせばトロイアの火にも負けない恐ろしさになるのではないでしょうか。」

ネロ「ティゲリヌスよ。愛する我が親衛隊長。

 お前の従順さと生真面目さは私の人生にとってとても重要だ。

 しかし残念ながら神々はお前には芸術の素養を一切与えなかった。闘技場の砂粒ほどの才能もお前にはないのだ。

 奴隷のような卑しいモノを入れた大きな木箱を燃やして何が残る。

 そこに感動が残ると思うか? いや違う。そこに残るのは大量の炭と焼け残った骨と失笑だけだ。

 トロイアの火はそんなものではない。かの文明の存在を全て焼き尽くした恐ろしい業火だ。

 もし、そんな火をわしに見せることが出来たら、わしはお前を次の皇帝にしてやっても惜しくない。本当だ。

 なぜならば、本当に全てを破壊しつくすことのできる力を持った人間こそがユピテルであり、世界の支配者だ。

 今の世ではわしにしかそれができない。

 お前にそれができると言うのであれば、お前がわしを襲うことになんの不都合があろうか。」

 一同は何とも言えないこの皇帝の、冗談とも何ともつかないこの放言に聞き入っていたが、やがて酒の魔力によって忘れ、いつもながらのどんちゃん騒ぎを再開した。

 しかしティゲリヌスだけは、皇帝の言葉をいつまでも反芻しているのか、何かに必死に思いをめぐらしているかのように、うつむいて黙り込んでしまっていた。

 

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